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冬にそむく
石川博品 syo5
大ボリュームアップ!【期間限定 無料試し読み増量版!】
終わらない冬のなか、二人はデートする。
年が明けてからもずっと「冬」が続くという異常気象。
気温のあがらない夏、九月に降る雪。コメの収穫は絶望的で、原油価格は上昇し続け、消費は冷えこんでいる。もう世界は終わってしまったのかもしれないと、人々は日に日に絶望を深めていった。
神奈川県の出海町にある海水浴場も一面雪で覆われ、サーファーも釣り客もヨットのオーナーも姿を消した。この町で育った高校生、天城幸久にはこれまで想像もつかなかった光景だった。降り続く雪でリモート授業も今では当たり前になっている。世界はもうすっかり変わってしまったのだ。
雪かきスコップを手に幸久は近所のとある場所へとやってくる。
金属製の門をくぐった先には、前面が総ガラス張りの変わったデザインの家が建つ。その敷地内で雪かきをしている女の子がいる。高校からこの町へ越してきた同級生、真瀬美波だ。彼女はこの家にひとりで住んでいる。
幸久は彼女の家へと通い、雪かきを手伝うことが日課になっている。
幸久と美波はすでに交際しているのだが、学校ではほとんど会話もしないため、クラスメイトたちは誰もその事実を知らない。
雪に閉ざされた世界のなか、二人は秘密のデートを重ねていく。
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。 -
秘密。そして、それから
泉住怜那 セカイメグル
こんなことがバレたら、僕たちは今までのままではいられない、きっと。誰にも言えない秘密を抱える三人の男女の青春模様。
新型コロナウイルスが蔓延しはじめた春。高校三年に進級した吉良は、始業式の日だけ登校したものの、すぐに休校。4月7日に緊急事態宣言が発出されたその夜、いつも帰宅の遅い父親が珍しく早く帰ってきて、久しぶりに家族五人で食卓を囲むことに。明日からリモートワークになるのだそうだ。父に家にいられると級友の利喜の家に遊びにいきづらくなると考えた吉良は、リモートワークについて、つい父にいろいろ尋ねてしまった。食事を終えると、疲れた顔をした父親に仕事の話をするものじゃないと兄から窘められた吉良。だが……父さん、どんな顔をしてたっけ? 父親がどんな顔だったのか、思い出せない。たった今、自分の目の前から去った兄の顔さえも。これまで自分は他人に興味がないだけなのだと思っていた。でもどうやらそうではないらしい。これはもしかしたら何か大変な病気なのかもしれない。オンライン授業も違和感だらけで不安になる。検索サイトで調べてみると、ヒットしたのは「相貌失認」というキーワード――。